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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)6097号 判決 1958年12月06日

原告 杉山金太郎

右代理人弁護士 松沢竜雄

平岩新吾

被告 皆川勘一郎

被告 皆川クニ

右両名代理人弁護士 中野富次男

主文

一、原告の被告皆川クニに対する請求を却下する。

二、被告皆川勘一郎は原告に対し金八十七万円及び之に対する昭和三十一年八月十二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用中、原告と被告皆川クニとの間に生じたものは原告の負担とし、原告と被告皆川勘一郎との間に生じたものは被告皆川勘一郎の負担とする。

四、この判決は主文第二項に限り原告が被告皆川勘一郎に対し金十五万円の担保を供するときは仮りに執行することが出来る。

事実

≪省略≫

理由

一、被告クニに対する請求の適否について

被告クニに対する原告の請求は要するに原告の被告勘一郎に対する債務不履行に基く損害賠償の請求が理由なければ、被告クニにおいて同被告及び被告勘一郎両名の共同不法行為により原告に加えた損害を賠償せよというのである。右はいわゆる主観的予備的請求の併合と称せられるものであるが当裁判所はかかる訴訟形式は許容されないものと解するを相当と考える。

けだし

(一)  かかる請求の相手方としてはその訴訟上の運命は第一次の請求の結果に依存するのであつて、他人間の訴訟の推移如何によつて或は自己の応訴が必要とせられ或はこれが不要となるというような応訴上の著るしい不安定不利益を免れない。かかる訴を提起する者にとつては極めて便利であつて訴訟経済の要求に叶う点がなきにしも非らずであるが、かかる利便は相手方の蒙るべき著るしい不利益と比べてみるとむしろ軽少であつて犠牲において原告の便宜のみを計ることは公平の理念に反する。

(二)  通常の共同訴訟においては、共同訴訟人の一人が上訴するも他の共同訴訟人に対し移審の効力を及ぼさないのが原則であるが、請求の予備的併合の場合においては第一次の請求と予備的請求のいずれかについて上訴があれば、上訴審においては右両個の請求が共に審理の対象とされるのであるから主観的予備的併合を許容すると右は前記共同訴訟の原則と矛盾を来す不合理な結果を招来することになる。

従つて原告の被告クニに対する請求はその本案について判断するまでもなく不適法であつて却下を免れない。

二、被告勘一郎に対する請求について

原告と被告勘一郎との間に昭和三十年五月十一日原告主張のような和解契約が締結されたこと及び被告勘一郎が同年五月三十日頃東京都知事宛に本件土地の賃借権譲渡許可願を提出したが、同年十月二十日被告勘一郎に対し承認出来ないとして前記願が返戻されたことは当事者間に争がない。

そして成立に争のない甲第十七号証、乙第二号証に原告本人尋問の結果に被告勘一郎本人尋問の結果の一部を綜合すると被告勘一郎が東京都から賃借していた本件土地の賃借権を終戦後同被告の外地からの復員前同被告の母なる被告クニが原告に譲渡し、原告が該地上に被告勘一郎名義で木造家屋を建築所有していたところ被告勘一郎が右家屋を取毀したので原告は同被告を東京地方検察庁に告訴したが同地検検察事務官の斡旋により前記和解契約が成立し告訴を取下げたこと、右和解において被告勘一郎は本件土地の賃借権を原告に譲渡することとし、之について東京都の譲渡の承認を得るについて協力することを約したことが認められ右認定に反する被告勘一郎の供述部分は信用出来ず他に右認定を覆す証拠がない。

そして成立に争のない乙第三号証、原告本人尋問の結果真正に成立したものと認められる甲第二十一号証に証人清水栄太郎、同和田俊雄、同三宅春松の各証言及び原告本人尋問の結果竝に被告勘一郎本人尋問の結果の一部を綜合すると、本件土地の賃借権譲渡許可は都知事から中央区長に委任されており被告勘一郎は原告と連署の右許可願を中央区長に提出したこと、そして区で調査したところ右書面が出ているものの両者間に賃借権譲渡については未だ十分話合が出来て居らず、且つ僅少地の分割譲渡であるため、中央区長は東京都の意見を求めるため都へ右許可願を送付したこと、東京都においては担当係官である訴外清水栄太郎、同和田俊雄が事情を聞くべく原告及び被告勘一郎を呼び出したが、被告勘一郎は呼出時刻に遅れて出頭したので双方揃つたところで十分両者の話をきくことが出来なかつたこと、東京都では三十坪以下の土地の賃借権の分割譲渡は大体拒否するが三十坪以下でも独立した宅地と認められたり、又はその上に家屋が建てられている場合には許可する方針であつたこと、前記係官は本件譲渡について両者間に話合がつけば許可する事務をすすめてよいと考えていたこと、そして原告に対し被告勘一郎から本件土地譲渡許可に協力するような内容の書面を提出するよう指示があつたので、原告は被告勘一郎に右書面作成について依頼したが、被告勘一郎はこれを拒否したこと、そこで紛争が解決されないものと考え前記書類を中央区長に返したので同区長は乙第三号証記載の理由で右許可願を被告勘一郎に対し返戻したことが認められる。被告勘一郎は同被告の責に帰すべき事由より不許可となつたものでないと抗争するけれども、同被告の供述中前記認定に反する部分は措信出来ず他に右認定を覆す証拠がない。従つて被告勘一郎は東京都が本件申請につき許可すべく申請人として協力しなかつたものと謂うべく原告主張の和解契約に基づく義務に違反したことが明らかである。

本件土地の昭和三十年十月当時の借地権価額については当裁判所が真正に成立したものと認める甲第二十二号証に原告本人尋問の結果を綜合すると、一坪につき金十八万円と認められるから合計金九十万円と謂うべく原告は被告勘一郎の債務不履行により同額の損害を蒙つたものと謂うべきである。

以上認定した通りであるから、被告勘一郎に対し内金八十七万円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかである昭和三十一年八月十二日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

よつて訴訟費用については民事訴訟法第八十九条、同第九十二条、同第九十五条、仮執行の宣言については同法第百九十八条をそれぞれ適用し主文の通り判決する。

(裁判官 花淵精一)

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